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はじめの一歩
第1章 Butterfly
「若いのに?まだ、二十歳かそこらでしょう?父親は?」

「…あんまり話したがらない子だから…でも、武井さんならいいかな?あの子には内緒よ?お父さん、もう亡くなってるんですって。高校卒業してすぐに、制服のまま働かせてくれなんて言ってきたもんだから私もビックリして。お父さんが亡くなって、自分が家族を養わなきゃいけないんだ、っていうの。今から4年くらい前だったわ…」

4年前に高校を出たのなら、今年で22か。
それなら学生の弟がいても不思議じゃない。
父親が若くして亡くなることもあるだろう。
しかし母親は何をしてるんだ?と思った。
身体でも悪いんだろうか。でなければ、年頃の娘が水商売をしてまで親を養う理由が思い浮かばなかった。

それにしたって、行政サービスとか、何かしらの保護を受ければ、彼女が家族を支える必要もないのでは?とも思った。

「元は、お嬢様だったんじゃないかと思うのよ?初めて店に来た時も、私立の女子高の制服を着てたし。もちろんお客様のあしらいなんかは店に来てから覚えたものだけれど、会話の内容とか…お酒に強いわけでもないのに、いいブランデーやらウィスキーの銘柄は最初からよく知ってたし。何か事情があるのは確かなんだけど、はっきりしたことは私にも話してくれないの。」

「…こういうのは、ルール違反なのかな…彼女の、本名、教えてもらえませんか?どうも、どこかで見たことがあるような気がするんです。それが、ずっと引っかかっていて。スッキリしないから…」

ママは、躊躇いながら、彼女の名前を教えてくれた。

一之瀬 由美子…それが、彼女の本名だった。
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