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 その腕で壊して 
第1章  
「こないだ駅の近くで強姦事件あったの、知ってるだろ」
「強姦・・・?」


 言われてみれば、全校集会で校長先生が話してた気がする。
 あ、そうだった。思い出した。
 高校生の女の子が若い男2人組にレイプされたらしい。
 塾帰りの深夜・・・あ、ちょうど今くらいの時間か。
 いっぱい血が出てたうえに中出しされてたんだと。
 一体どっから情報仕入れたのか、お母さんが苦々しい顔して話してた。


「あぁ・・・うん。知ってる。怖いよね」
「犯人捕まってないんだよ?」
「らしいね」


 乾いた音と共に、家の中に染み付いた匂いと同じものが当たり一面に広がる。
 煙を吐き出しながら、お兄ちゃんは大きく欠伸をした。



「らしいね、じゃ、ないよ。兄として。やっぱ今でも同じように心配になるから、こういうことはやめて欲しい。智恵子になにかあったらって兄ちゃん、考えただけでしんどくなる」


 
 もう一口だけ吸って、お兄ちゃんは煙草を投げた。
 薄暗いアスファルトの上で赤い炎をちらつかせながら、夜風に吹かれ転がっていった。



「中学生を探し回るのは、仕事だけで十分だから。妹にくらいは、真面目でいて欲しい」



 
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