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くちづけを待ってる
第1章 読み切り短編

このひとと知り合って、もうすぐ一年。
秋雨の降る、日曜日の午後の人気ない美術館。
それが、最初のデートだった。
はじめは、軽い付き合いのつもりでいた。
わたしは二六。彼は四二。
年もずいぶん離れていたし、容姿だって、同世代の男友達に比べれば目を見張るほど素敵、というわけでもない。
でも、彼には同世代の男性にはない、深みと落ち着きがあった。
知性と余裕があった。
おだやかで、物静かで、なによりもわたしを大人にしてくれた。
わたしにだって、セックスの経験はあった。
でも、ほかの誰も、彼のように愛してくれる人はいなかった。
でも、若い彼らのせいばかりではない。
―――わたしも幼かったのだと、いまでは判る。
彼らとおなじように。
わたしも彼らを喜ばせるために、わざとらしいため息をついたり、逝くフリをしたりもした。
彼の指先が、わたしの顎を捉える。
彼は、ちいさな水跡を見つめている。
わたしの頬についた、自分の亀頭から漏れ出た愛液のしずく。
“綺麗だよ”
その目が語ってる。
彼とのセックスには、そんなつまらない芝居の介在する余地がない。
たとえ着衣のままであっても、わたしは心の底から、裸に剥かれる。
そしてまた、彼も、何も隠す物なく、裸になってくれる。
年の差や、容姿など、セックスという言葉を越えたコミュニケーションの前では何一つ意味がないのだ、ということを、彼はわたしの心に刻んでゆく。

