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瞳で抱きしめて
第1章 家出?
━━━━━━その人に出会ったのは、夏休みに入る一週間前のことだった。
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切れた唇に触れ、思いの外出血していることを知る。
光はため息をついた。
鮮血の付いた右手を制服のズボンで拭うと、もう一度深く息を吐いて背後の壁に背中を押し付けると、そのままずるずると崩れるように座り込んだ。
背中を預ける壁は夏の湿気と光の汗を吸い込んでいるかのように、なんだか生暖かい。
ここは住宅地や商店街から少し離れた場所にある、神主が常駐しない小さな神社だった。
光は幼い頃、この神社の境内でよく遊んだ。
神社の周りを背の高い木々が囲み、周りの喧騒から隔離されたかのように人気がなく静かであることもよく知っている。
今のように家に帰りたくなく、人目を避けたい時には昔からよくこの場所に足を向けていた。
「はあ…っ」
静寂が自分を包み込む安心感が少しずつ全身に広がり、光はいつの間にかぼんやりと微睡みはじめる。