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瞳で抱きしめて
第1章 家出?

「17時までには帰って来てよ?お店予約しちゃってるんだから」



「分かってる」



彼氏とディナーの約束があるからと何度も念押しされながら、しばらくの間妹に店番を頼んで樹理は家を出てきた。



毎日近所を散歩するのは樹理の日課だ。


夏場は日が傾きだした夕方か、夜日が沈んでから。


今日はなんとなく、まだ明るいうちに歩きたくなったのだ。


いつものように住宅街を抜け、細い路地に入る。


車一台がやっと通れるくらいの小さな道。


蝉の音だけがけたたましく、人の気配は全くなかった。



ここをまっすぐ抜けると、彼女の毎日の散歩の折り返し地点だ。




いつものように鳥居をくぐり、御神木が作る大きな日陰にはいると深呼吸をする。



そしていつものように拝殿へ続く短い階段を上り終えたところで、樹理はいつもとは違う小さな異変に気づいた。




「う……ん……」




誰かの寝息か。


樹理はピクリと身体を強ばらせる。


すぐ側で聞こえた。拝殿の、賽銭箱が置いてある正面から端にそれて少し奥へ行ったあたりだ。



「う……」



うなされている?


どことなく苦しそうなその声が気になって、樹理はそっと足音を無駄にたてないようにしながら声の方へ近づいていった。




そして━━━━




「…………」




樹理が見つけたのは、拝殿の壁に背をもたれながら眠っている制服姿の少年だった。


色素が薄いのか、日本人ではないのか、真っ白な白い肌と明るい茶色の髪をしている。

整った顔立ちをしているのは瞳を閉じていても分かった。



「う……ぅ…ん」



時折魘されるように眉間にシワを寄せる。


そんな彼の唇は切れ、固まった血が赤黒く光っていた。


それ以外にも、制服や腕や頬が土で汚れている。



「…」



樹理はさほど動揺もせずに、腕を組むと目の前の少年をどうしたものかと見下ろしていた。



救急車?

そこまで重症にもみえないが。

それとも起こしてみるか…




普段から冷静だと周りから評される樹理。


取り乱した様子は微塵も見せずに少年の目の前にかが見込むと、その切れた唇を覗きこむようにして声をかけた。



「ねぇ。君。大丈夫?」
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