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3つのジムノペディ
第1章 レント(ゆっくり)で、荘厳に

指への丁寧な挨拶が済むと、スリムな白い麻のパンツを脱がし、太ももを彩るガーターベルトを外す。そして、ストッキングを慎重に脱がしてゆく。
やがて、その長く美しい脚があらわれる。
レースのカーテン越しに差し込む、午後のやわらかな光を受けて、彼女の白い脚がキラキラと輝く。
そしてそこに、じかに触れることが許される。
「おねがい、頬ずりして」
彼女の言葉に、ぼくは捧げ持つそのすねに、そっと頬ずりする。
少し冷えた、すべすべの肌。
部屋は静かにエア・コンディションされ、窓の外からは平日午後の都心のシティー・ノイズが微かに聞こえてくる。
膝の裏に吹かれたパフュームの香りが、ぼんやりと鼻の奥に広がる。
まるで南米インディオの祝祭用麻薬物質のように、その香りはぼくから理性を奪い、正常な判断力を失わせる。
それからぼくは、彼女の左右の脚の親指を、いっぽんずつ、そっと口に含む。
パール色のペディキュアに彩られた爪先を、舌でそっと触れ、そのまま口腔の中に脚の指を入れる。
口の中で舌をめぐらし、それをしゃぶり、吸い、甘噛みし、指と指の間の股に舌を這わせる。
彼女の吐息が乱れ、うすく声が混じる。
その感情の揺らぎに、ぼく自身が発熱する。唇からよだれをこぼしながら、ぼくは無心になって、彼女の脚の親指にフェラチオをする。
ぼくは深海に潜むチョウチンアンコウのことを思う。
光なき、高圧の海の底で、チョウチンアンコウはその額から伸びた細長い竿状器官の先を発光させるそうだ。
真っ暗闇の世界の中、まるで幻のように、そのほのかな灯りが揺れている。小魚を誘い出すために。偶数週水曜のこれといった特徴ない午後の光のなか、目を閉じて、その深海の暗闇のように静かな彼女の心の深淵に、微かな灯火(ともしび)を点灯させることにだけ、心を砕く。その脚の親指にフェラチオを続けることで。
―――――もうぼくが、まともな人付き合いをやめて、どれぐらいの時間が経ったろう。
仕事はしている。PCとインターネットさえあれば、オフィスになど通う必要はない。
性欲は、ミセス・メルセデスに完全にコントロールされてしまった。したがって、ガールフレンドを作る理由が見つけられない。
いや、そうじゃない。

