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3つのジムノペディ
第1章 レント(ゆっくり)で、荘厳に

性行為の後、ぼくたちは全裸になって、ベッドに横たわる。ゆっくりと冷えてゆく肌を触れ合わせて。
彼女は、西部劇の用心棒が手のひらのなかでクルミを転がすように、ぼくの睾丸をもてあそぶ。
ぼくたちはそうして、静かに過ぎてゆく時間を味わう。
彼女の持ってきた音楽を聴きながら。
エリック・サティ。
その神秘的な代表曲、「ジムノペディ」をドビュッシーがオーケストレーションした楽曲。
「シャルル・デュトワ。モントリオール交響楽団」
と彼女が教えてくれる。
彼女のひんやりした指が、デュトワの指揮にシンクロして、睾丸を転がす。
憂いのただなかに、透明な神秘性をたたえたこの曲は、寄せ返す湖のすきとおったさざ波のような静けさで、部屋とぼくたちふたりの心を満たす。
「古代ギリシャの神々をたたえて催されたお祭り、ジムノペディア。人々はそのお祭りを全裸で行ったそうよ。いまのわたしたちみたいに」
「でも、そんな風に、玉をもてあそんだりはしなかったのでしょう?」
フフ、と彼女は笑った。
「でも、お祭りにして曲のイメージが神秘的で荘厳ですよね」
「わたしとのセックスみたいでしょ?」
彼女の言葉は、午後の部屋に静かな沈黙を呼んだ。
「―――猛々しくて、激しいばかりがセックスではないのよ」
彼女はそういって、睾丸への静かな愛撫をとめ、ペニスへ手を伸ばした。
ぼくの顔を覗き込み、顔色を見ながらそっと、その手をストロークさせる。激しくはしない。あくまでソフトに。ピンポイントに指先を使い、ぼくのウィークポイントを巧みに攻め立てる。
ぼくの目は潤み、呼吸が浅くなり、吐息に声が混じる。
彼女の指先はまるで手際のいい手品師のようにペニスを勃起させ、興奮をつかさどり、やがて、射精させる。ミセス・メルセデスの手のひらの中へと。本日二度目の射精。
「あなたの射精する時の顔が好き」
と、彼女は言う。「わたしを心から求めているその顔を見ていると、本当に満たされる」と。
モントリオール交響楽団は、最初から最後まで、高揚など一切なく、その神曲を演奏しきった。
ぼくはもう、とうの昔に、彼女がぼくのことを好きかどうかなど、考えることを放棄した。
射精後の重い疲労の中で、彼女の指先の冷たさだけが、リアルとファンタジーをつなぎとめている。
ぼくらの偶数週水曜日のジムノペディアは、いつもこうして終わる。

