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愛し愛され
第6章 ダイニングテーブルのシャボン玉

電話を切ったさほ子は、その博人の気持ちをあれやこれやと、推し量った。
ゆっくりと、キッチンのテーブルに座って、婦人雑誌のページを見るともなくめくりながら、彼女は、博人は身を引くつもりだったのだ、と思い至った。それで合点する。おそらく、あの性交が成就できなかったことを気にやんで、彼はそんな風に早合点してしまったのだろう。あの時も、気にすることはないといい、それもまた、社交辞令でなく心からの言葉だったはずなのに。彼にはその気持ちはすこしも通じていなかったのだ、と彼女は思った。それはとても残念なことだ。しかし。それもまた、純粋でナイーブな彼らしい振る舞いではないか。
そんな風に思う自分に、彼女は驚いてしまう。
事実はひとつだけだけれど、真実は人の数だけある。
彼のことを好ましく思うからこそ、その彼の早合点は、ナイーブという言葉に置き換えられるのだ。
彼のことをその他大勢の男性たちと同じに扱うなら、その早合点は、とても自分勝手で世間知らずな振る舞いなのだ、と断定されることになる。
まるで、恋だ、とさほ子は思う。
恋をして、時めいて、あばたもえくぼに思えるとはこのことか。
そういう自分が、すこし、可笑しかった。彼女の唇の脇のえくぼが、深みを増した。まるで、恋だ、と思うところまでは客観的に気づけた彼女だったが、そのえくぼの深みまでは、気づくことができなかった。
さほ子は、自分が思うよりもはるかに深く、博人に心傾いていた。そして、そんな風に誰かを思うことは、ここ何年も、彼女には訪れなかった感情だった。

