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口琴
第5章 蒼い果実
「…彩乃…さん…。あ、でも私…お風呂いい。帰らなくちゃ」

「…でも…蕾さん…夕べはお坊っちゃまに沢山可愛がって頂いたのでは?蕾さんはもう、お坊っちゃまのものです。お坊っちゃまとのお褥(しとね)の前後は、身を清めるものです。お坊っちゃまを"お慰め"する女の子としてのお作法でもあるのですよ?」

彩乃は、怪訝そうに蕾を見て言った。

「私…誰のものでもない…」

蕾の言葉に彩乃は正直驚いたが、すぐに諭すように言葉を返した。

「…しかし、そのままでは気持ちよくお帰りになれないのでは?」

彩乃にそう言われ、自分の躰から汗や、唾液や精液の匂いが漂い、躰中にそれらの乾きが糊のように付着しているのを感じ、気分が悪くなった。

蕾が躊躇っていると、彩乃が蕾のそばに寄り沿い、優しく母親のような微笑みで、諭すように頷いた。それから蕾の躰を気遣うように、ゆっくりと浴室へと案内した。

「…彩乃さんが、この浴衣に着替えさせてくれたの?」

「はい。蕾さんは、ぐっすりお休みになっておられましたので。失礼ながらその間にお召し替えを…」

「…そう…ありがとう…でも…私の服は?」

「ご心配ございません。只今クリーニング致しております。後程お持ち致しますので。ご入浴後は、お食事もご用意致します」

「…………」

まるで、お姫様のような待遇に、少々不気味で困惑したが、彩乃の優しさが蕾の心を少し安堵させたことは間違いなかった。

浴室は、蕾が寝ていた和室の奥にある。始めてここへ来たときは、この風呂を使ったかどうか覚えていない程憔悴していた。

今、こうして冷静にいられるのは、蕾の躰が激しい凌辱に慣れ、"堪えられた"と言うことなのだろうか…。それとも自ら中條を"欲した"からか…。

浴室は、高級旅館のような半露天風呂で、美しい日本庭園を愛でながら湯に浸かることができる。

たっぷりと湯を湛えた檜風呂からは、湯煙がゆらゆらと踊っていた。

裸になった蕾は、檜の腰掛けに座る。

彩乃が、手桶からゆっくりと蕾の躰に湯を掛けて、流してくれた。

透き通るような肌の、至る所に残る赤紫色の愛撫の痕跡は、この少女が中條の所有物である事を物語る刻印のように思え、彩乃は悲しい目で見つめた。

「…羨ましい…」

蚊の鳴くような呟きが、彩乃の口から零れたが、蕾は気付かなかった。
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