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口琴
第6章 初恋
「ま、いいか。元気になったし…」

「…聖君…ありがとう」

「い、いや…別に…」

「それから、私は蕾よ?『蕾』って呼んでね?」

「し、しょうがねぇなぁ…。つ、蕾…」

「うん!うふふっ!嬉しい!ね?もう一回あの曲吹いて?私、歌うから」

「あ、ああ…」


聖のハーモニカの音色に、蕾の澄んだ歌声が美しく調和し、二人の織り成す音楽は、夏の黄昏を駆けて行った。

静かに曲が終わると、二人は暫くお互いを見つめ合う。

沈黙と夕日が二人を包む…。

夕日のせいか…真っ赤な顔の聖が早口で喋り始めた。

「そ、そう言えば、蕾の両親はウィーンの音大で出会ったって言ってたよな?」

「うん…」

「うちの両親もなんだ。ウィーンの音大で出会ってる。何だか偶然だな?」

「本当?凄い!それって凄い偶然だね?」

「俺んちの両親は音楽教室で教えたり、地元の交響楽団でも活動してるから、コンサートやなんかで、しょっちゅう留守なんだ。特にクリスマスとか…。俺の誕生日なんか、滅多に祝ってくれない。酷い親だぜ、全く…」

聖は両親を皮肉って、含み笑いを浮かべた。

「…ママも、音楽教室してたんだけど…パパの大事な筐のピアノで…。お歌とか、ピアノとか子ども達に教えてたのよ?ママはね、声楽家だったからお歌がとっても上手なの!…でもそのピアノは、今のパパが…売っちゃったから……もうないの…。私、あのピアノ大好きだったのに…。マホガニーの素敵なピアノだったの…。でも、もう音楽教室もできなくなっちゃった…。今はママが、バレエ教室でピアノを弾いたり、夜はお酒を飲むお店でピアノを弾いたり、ジャズって言うお歌を歌ってお仕事してる…。今のパパは、働くのが嫌いなの…」

「…そっか…。何て言ったらいいか…その…」

蕾は言葉を探そうとする聖を見て、慌てて話題を変えた。

「あ、ごめんね?変なことぺらぺら言っちゃった。そうだ、ちょっとだけそのハーモニカ見せて?」

「あ、ああ…いいよ。ほら…」

「へぇー凄い…。幼稚園の時に買って貰ったのと全然違う…。こんなところにレバーみたいなのがあるんだね?」

「ああ、クロマチックだから。それは半音を出す為に使うんだ」

「…ねぇ、ちょっとだけ吹いてみてもいい?」

「え?…そ、それは…えっと…」

聖の心臓が、早鐘を打った。
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