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イカせ屋稼業
第10章 〜番外編〜
――――面倒くさい。
こうなるのは分かっていた。
優衣とやらは俺を「好き」だと言ってきた。
「良かったら付き合ってほしい」と。
俺は、
「それは出来ない」と切った。
すると「どうしてもダメですか?」と食い下がり、
「体だけでも愛してください」と言ってきた。
俺の、何を知って好きだのなんだの思うのだろう。
容姿が目立つから何だというのだ。
(何ひとつ、
分からないクセに…)
俺ははぁ、と息を吐きながら芝生に戻った。
「おー拓矢。
…………またかぁ?」
裕希が慮りながら訊いてきた。2段重ねの弁当箱が空になっている。
「うん、まぁね」
俺はメロンパンを掴んで口に押し込んだ。
「緋路は?昼練?」
「うん、体育館行ったよ。あのさぁ………
俺が言うことじゃないけどさ。
お前ちょっとヒドイよ?
最近特に」
裕希も根が優しいヤツだ。
あからさまに軽蔑したり無視もしない。
「―――気をつけとくよ」俺が低い声でスパッと言うと、
裕希はそれ以上突っ込まなかった。
自宅に帰る。
「ただいま」
戸田さんが玄関を開いてくれた。
「………最近、
母さん見ないけど元気なのアノ人」
俺は戸田さんが作ったジンジャークッキーをかじりながら、
訊ねた。
「はあ、
奥様はお元気でございますよ。
今日は高崎にて講演だと仰ってました」
戸田さんは雇われているだけの家政婦だ。
困ったように言葉を選びながら、
俺にそう話す。
(…………………
緋路……………)
俺は緋路のユニフォーム姿を思い出す。
白い足首が、
バスケットシューズにくるまれるようにしなやかに伸びている。
長い腕。
顎に沿って並んだ黒子(ほくろ)。
八重歯………
凪と手を繋いで赤レンガの校門を出ていく、
後ろ姿。