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イカせ屋稼業
第14章 そのじゅうに
『お久しぶりっす、
オヤジさん』

まだ営業時間前だ。

仕込み中の男性が、
「はーい?」と出てきた。

そして、KANAMEを見て目を見開く。
『了!!
どーしたぁ、帰ってきたのか?!!』
頭が薄い調理人が頬を真っ赤に紅潮させ目に涙を溜めた。


KANAMEに駆け寄ると、
肩を抱いた。

『了…………何年ぶりだ?
5……いや7年か?急に居なくなっちまって………』
調理人が泣き始めた。


『6年だよ、オヤジさん』
KANAMEが笑った。

『___悪いんだけど、時間ねぇんだ。
2階で探し物をしたいんだけど』



調理人は大粒の涙を調理服の袖で拭く。
『構わないけど…………
あのときのまんまだぞ?
お前が、17歳のときの…………』


KANAMEは店の奥に向かう。

皮ブーツを脱ぎ、
『そのほうがいい』と〔オヤジさん〕に告げた。


2階に駆け上がる。



17歳まで、
KANAMEはここに住んでいた。


母親が〔オヤジさん〕と仲が良かったらしく、
赤ん坊の俺を預けて消えた。〔オヤジさん〕は若くして妻を癌で亡くし、以来ずっと一人定食屋を営んでいる。



〔オヤジさん〕にさえ母親の居所も俺の父親のことも分からなかったらしく、
分かっているのは俺は捨てられたという事実だけだった。



KANAMEは狭い8畳ほどの〔自室〕に入った。

あの頃よりも階段や廊下は傷み、
古臭くなっている。



机と、ベッドと、本棚がそのまんま残っていた。


感慨など湧かない。


オヤジさんに恩はあるが、
情はない。


10歳かそこらの頃、決めたのだ。

必ずここを出て、
自分の力でのし上がってやる………と。



KANAMEは本棚を漁る。

どこに何を仕舞ったかも忘れた。


バサバサと本やノート___当時も使用してないまま、新品同様だ___を床に落としてゆく。


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