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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第4章 第二話【花影】-其の壱-

母の口癖だった言葉が蘇る。
母は三十一年という女の生涯の中で確かに一輪の花を咲かせた。短い一生を精一杯生き抜いたその姿は今も伊八だけではなくお彩の心にも生き生きと息づいている。
お人好しで自分の身よりも赤の他人のために奔走する母の姿を幼時から見て育ってきたお彩だった。母が一生かかって咲かせた花は、母がたとえこの世からいなくなっても、伊八の、お彩の、母を知るすべての人々の心の中に凛として咲き続けている。
「今度来るときは、ちゃんと家の中でおとっつぁんと差し向かいで話ができると思うわ」
お彩は父の眼を見つめて言った。
「そうか」
伊八はもう何も言わなかった。
「早く帰ってこい」
ただ、ひと言、その言葉だけをくれた。伊八は伊八なりに娘の真剣な気持ちを理解し思いやったのだ。
母は三十一年という女の生涯の中で確かに一輪の花を咲かせた。短い一生を精一杯生き抜いたその姿は今も伊八だけではなくお彩の心にも生き生きと息づいている。
お人好しで自分の身よりも赤の他人のために奔走する母の姿を幼時から見て育ってきたお彩だった。母が一生かかって咲かせた花は、母がたとえこの世からいなくなっても、伊八の、お彩の、母を知るすべての人々の心の中に凛として咲き続けている。
「今度来るときは、ちゃんと家の中でおとっつぁんと差し向かいで話ができると思うわ」
お彩は父の眼を見つめて言った。
「そうか」
伊八はもう何も言わなかった。
「早く帰ってこい」
ただ、ひと言、その言葉だけをくれた。伊八は伊八なりに娘の真剣な気持ちを理解し思いやったのだ。

