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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第5章 第二話・其の弐

また、小巻が八カ月―直に九カ月に入ろうとしている―の妊婦であることを考えれば、喜六郎でなくとも小巻の機嫌を損じるようなことをして、うっかりと気を立たせては、もしや早産でもすまいかとつい及び腰になってしまうのも無理はない。
夜も四ツ(午後十時)を過ぎた頃、漸く最後の客が帰り、お彩は表の掛け行灯の火を消し、渋柿色に「花がすみ」と白で染め抜いてある暖簾を仕舞った。ふと見上げた夜空には、女人の眉のような繊細な月が頼りなげに浮かんでいた。
お彩は小さな吐息を吐くと、そのまま二階へと続く階段を上がった。店を閉めた後で良いから、喜六郎の部屋に来るようにと夕刻、言い渡されていたのだ。
「花がすみ」は二階家になっており、一階が店、二階に喜六郎初め家族の居間が二間ある。もっとも、そのうちのひと部屋は以前は小巻が使っていたものだが、小巻がいなくなってからは無人となっている。現在、里帰り中の小巻は嫁ぐまで使っていたその部屋で寝起きしていた。
夜も四ツ(午後十時)を過ぎた頃、漸く最後の客が帰り、お彩は表の掛け行灯の火を消し、渋柿色に「花がすみ」と白で染め抜いてある暖簾を仕舞った。ふと見上げた夜空には、女人の眉のような繊細な月が頼りなげに浮かんでいた。
お彩は小さな吐息を吐くと、そのまま二階へと続く階段を上がった。店を閉めた後で良いから、喜六郎の部屋に来るようにと夕刻、言い渡されていたのだ。
「花がすみ」は二階家になっており、一階が店、二階に喜六郎初め家族の居間が二間ある。もっとも、そのうちのひと部屋は以前は小巻が使っていたものだが、小巻がいなくなってからは無人となっている。現在、里帰り中の小巻は嫁ぐまで使っていたその部屋で寝起きしていた。

