この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第5章 第二話・其の弐

「いや、遅くに呼び立てて済まねえ。本当なら帰る時間になって来て貰ったのは他でもねえ、ちと込み入った理由(わけ)ができてな」
喜六郎の言葉は、どうもすっきりとしない。
元々気の弱い人だから、はきと物を言わない傾向はあるが、ここまで言いにくそうにすることはない。
「おとっつぁん、この際、はっきり言った方が良いわよ」
小巻が横から口を挟む。お彩は小巻の方を一瞥して、喜六郎に視線を戻した。
「実は、店の金が無くなっちまったんだ」
ひと息に言ってしまってから、喜六郎は気まずげな表情で小さく咳払いした。
「―」
お彩は予想もせぬ成り行きに言葉さえ発することができず、ただ茫然と喜六郎を見た。
「今だから話すが、店の売上金はすべてこの俺の部屋の手文庫にしまっておくことにしてるんだよ。そのあり金が全部、きれいさっぱり、それこそ霞のように消えちまったのさ。夕べ、俺が昨日の売上を納めたときにはまだ変わりはなかったんだが、昼過ぎに何げなく中を覗いたら、何も無くなってたんだよ」
喜六郎の言葉は、どうもすっきりとしない。
元々気の弱い人だから、はきと物を言わない傾向はあるが、ここまで言いにくそうにすることはない。
「おとっつぁん、この際、はっきり言った方が良いわよ」
小巻が横から口を挟む。お彩は小巻の方を一瞥して、喜六郎に視線を戻した。
「実は、店の金が無くなっちまったんだ」
ひと息に言ってしまってから、喜六郎は気まずげな表情で小さく咳払いした。
「―」
お彩は予想もせぬ成り行きに言葉さえ発することができず、ただ茫然と喜六郎を見た。
「今だから話すが、店の売上金はすべてこの俺の部屋の手文庫にしまっておくことにしてるんだよ。そのあり金が全部、きれいさっぱり、それこそ霞のように消えちまったのさ。夕べ、俺が昨日の売上を納めたときにはまだ変わりはなかったんだが、昼過ぎに何げなく中を覗いたら、何も無くなってたんだよ」

