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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参

一瞬だけ、お彩の中に喪失感が生じる。何故なのか、その理由はお彩にも判りかねた。
―何故なの、何故、あなたは私に一瞬だけ触れて、離れてゆくの?
声にならぬ問いかけは、男の心に届いたのかもしれない。男は眼を見開き、その後、お彩から眼を逸らした。
男の躊躇いや逡巡は、何より男の心を物語っている。敢えてその間に距離を置こうとしている。男は自らの心を抑えていように見えた。
男もまた、お彩の隣に佇み、流れゆく川面を見つめた。夜の川がたっぷりとした薄紅色の花を映し出している。
その時、二人の間を夜風が通り過ぎた。気紛れな春の風は水面に描かれた花影をも揺らす。男は黙って、ざわめく川面を眺めている。
「私もずっと昔、似たようなことがあったよ」
ふと男が呟いた。お彩は愕いて男を見た。
―何故なの、何故、あなたは私に一瞬だけ触れて、離れてゆくの?
声にならぬ問いかけは、男の心に届いたのかもしれない。男は眼を見開き、その後、お彩から眼を逸らした。
男の躊躇いや逡巡は、何より男の心を物語っている。敢えてその間に距離を置こうとしている。男は自らの心を抑えていように見えた。
男もまた、お彩の隣に佇み、流れゆく川面を見つめた。夜の川がたっぷりとした薄紅色の花を映し出している。
その時、二人の間を夜風が通り過ぎた。気紛れな春の風は水面に描かれた花影をも揺らす。男は黙って、ざわめく川面を眺めている。
「私もずっと昔、似たようなことがあったよ」
ふと男が呟いた。お彩は愕いて男を見た。

