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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第6章 其の参

男が静かに微笑む。
「昔語りをするとしよう。もう今となっては、かれこれ十七年も前の話だがね。そう丁度、お前さんが生まれたばかりの赤ン坊だった頃の話だ。私はその頃、両親の下を離れて、さるお店(たな)に丁稚奉公に出された。いや、正しくは出されたというよりは、出たと言った方が良いだろう。私の二親は貧しく、人の好いのだけが取り柄のような人間で、ずっと裏店暮らしだった。私は物心ついた時分から、親父のようにはなりたくない、大人になったら、必ずいっぱしの商人になるんだと一途なほどに思い定めていた」
かすかな溜め息が男の口からこぼれ落ちた。過ぎ去った遠い昔を思い出しているかのような瞳だった。
「丁度一年近く経った頃のことだったか、ある日突然、盗人の疑いが私にかけられたんだよ。全く寝耳に水の話だった。
「昔語りをするとしよう。もう今となっては、かれこれ十七年も前の話だがね。そう丁度、お前さんが生まれたばかりの赤ン坊だった頃の話だ。私はその頃、両親の下を離れて、さるお店(たな)に丁稚奉公に出された。いや、正しくは出されたというよりは、出たと言った方が良いだろう。私の二親は貧しく、人の好いのだけが取り柄のような人間で、ずっと裏店暮らしだった。私は物心ついた時分から、親父のようにはなりたくない、大人になったら、必ずいっぱしの商人になるんだと一途なほどに思い定めていた」
かすかな溜め息が男の口からこぼれ落ちた。過ぎ去った遠い昔を思い出しているかのような瞳だった。
「丁度一年近く経った頃のことだったか、ある日突然、盗人の疑いが私にかけられたんだよ。全く寝耳に水の話だった。

