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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

何しろ伊八ももう四十になったのだ。いつまでも若くはないからと、当人が聞けば年寄り扱いをしてと気を悪くするようなことを考えつつ、お彩は弾んだ心で懐かしい我が家の前に立った。この前に来たのは一カ月前のこと、丁度随明寺の桜が満開の頃であった。あの時、お彩は父と二年ぶりに心を開いて話し合い、お彩は長らくの不孝を父に心から詫びることができたのだ。そして、父と解り合えた歓びも束の間、「花がすみ」の売上金を盗んだと小巻から疑いをかけられた。
盗人呼ばわりされて衝撃を受けていた最中、あの男が現れ、自分も若かりし頃、似たようなことがあったと話してくれた。男はどこから見ても商人、しかもその物腰からは一つ店を構えるほどの主と言っても良いほどのものが窺えた。そんな男が盗人の疑いをかけられたことがあるなんて俄には信じられなかったけれど、男は遠い眼で自らの過去を語った。
盗人呼ばわりされて衝撃を受けていた最中、あの男が現れ、自分も若かりし頃、似たようなことがあったと話してくれた。男はどこから見ても商人、しかもその物腰からは一つ店を構えるほどの主と言っても良いほどのものが窺えた。そんな男が盗人の疑いをかけられたことがあるなんて俄には信じられなかったけれど、男は遠い眼で自らの過去を語った。

