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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

伊八は江戸でも評判の腕の良い飾り職であり、得意客には高禄の旗本の内室、大店の内儀といった連中が多い。長年取り引きのある小間物屋に自らの作った簪を定期的に納める他に、こういった金持ちの妻女からの依頼を個人的に引き受ける。従って、実入りも結構あり、本当なら、こんな長屋住まいをしなくても良いのだ。しかし、伊八は恋女房のお絹、つまり、お彩の母と長年暮らしたこの甚平店を生涯離れる気はないのだときっぱりと言う。
お彩にとっても生まれてから十六年もの間、暮らし続けた懐かしい我が家であった。 あの不思議な男のことは依然として心にわだかまったままだが、五月の爽やかな気候もあってか、お彩の心は軽やかであった。
―急に顔を見せたら、おとっつぁん、びっくりするかしら。でも、あんまり愕かせて心ノ臓の発作でも起きたら、大変。
お彩にとっても生まれてから十六年もの間、暮らし続けた懐かしい我が家であった。 あの不思議な男のことは依然として心にわだかまったままだが、五月の爽やかな気候もあってか、お彩の心は軽やかであった。
―急に顔を見せたら、おとっつぁん、びっくりするかしら。でも、あんまり愕かせて心ノ臓の発作でも起きたら、大変。

