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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

「それもそうだ。お彩ちゃんが出生の秘密を知るはずはねえな。伊八さん、突然押し掛けてきて、妙なことばかり言ったようだが、あまり気を悪くしねえでくんな。俺もお縞もお彩ちゃんを育ててくれたあんたにはありがてえと思ってるんだから」
と、伊八が強い口調で返す。
「だから、その話はもうこれっきりにしてくれと言ってるだろう。俺はお彩のてて親なんだ。てて親が手前の娘っ子を育てるのは当たり前のことじゃねえか。そんな当たり前のことで一々礼を言われる筋合いはない」
お彩の手から竹の皮にくるまれた桜餅が落ちた。父のためにと随明寺の門前の茶屋で買い求めたものだ。
「お彩ちゃん」
傍らの伊勢次が小声で呼ぶのにもお彩は気付かない。落とした包みにも頓着せずに、その場を走り去った。
と、伊八が強い口調で返す。
「だから、その話はもうこれっきりにしてくれと言ってるだろう。俺はお彩のてて親なんだ。てて親が手前の娘っ子を育てるのは当たり前のことじゃねえか。そんな当たり前のことで一々礼を言われる筋合いはない」
お彩の手から竹の皮にくるまれた桜餅が落ちた。父のためにと随明寺の門前の茶屋で買い求めたものだ。
「お彩ちゃん」
傍らの伊勢次が小声で呼ぶのにもお彩は気付かない。落とした包みにも頓着せずに、その場を走り去った。

