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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

お彩はまるでその場を逃れるように走った。後から伊勢次が何か言いながら追いかけてくのにも構わず、ひたすら走った。
夢ならば良いのにと思った。大好きな父、母亡き後、この世でたった一人、心から信じ頼れる人。その父が自分の真の父ではないというのか。甚平店からかなり遠ざかったところで、やっと追いついた伊勢次がお彩の手を掴んだ。
「お彩ちゃん」
お彩は伊勢次の手を振り払おうとする。だが、いつもは控え目な伊勢次が今日だけはいつになく引かない。伊勢次はお彩の細い手首を掴んだまま、荒い息を吐きながら言った。ずっと駆けどおしだったため、伊勢次はすっかり息が上がっている。
お彩は伊勢次に手を掴まれたまま、うつむいた。涙が後から後から溢れ出てくる。声を洩らすまいとしても、噛みしめた唇から嗚咽が低く洩れた。
夢ならば良いのにと思った。大好きな父、母亡き後、この世でたった一人、心から信じ頼れる人。その父が自分の真の父ではないというのか。甚平店からかなり遠ざかったところで、やっと追いついた伊勢次がお彩の手を掴んだ。
「お彩ちゃん」
お彩は伊勢次の手を振り払おうとする。だが、いつもは控え目な伊勢次が今日だけはいつになく引かない。伊勢次はお彩の細い手首を掴んだまま、荒い息を吐きながら言った。ずっと駆けどおしだったため、伊勢次はすっかり息が上がっている。
お彩は伊勢次に手を掴まれたまま、うつむいた。涙が後から後から溢れ出てくる。声を洩らすまいとしても、噛みしめた唇から嗚咽が低く洩れた。

