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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

お彩は泣きながら叫んだ。
「私のことはもう放っておいてちょうだい」
言うなり、後も見ずにその場を去った。
一方、その頃、甚平店の伊八は表で小さな物音を聞きつけ、慌てて三叩土へ降りた。
「誰かいるのかい?」
誰何しながら腰高障子をさっと開けても、表には人どころか猫の子一匹見当たらない。―誰もいねえのか。
半ばホッとして何とはなしに視線を動かしたその時、地面に放り出された小さな包みが視界に入った。
「何だ、こりゃあ」
呟き拾い上げてみると、それは竹の皮で包まれた菓子であった。そっと開いてみると、塩漬けした桜の葉にくるまれた桜色の餅が行儀良く並んでいる。それが江戸名物としても知られる随明寺の桜餅だと、伊八にはすぐに判った。
「私のことはもう放っておいてちょうだい」
言うなり、後も見ずにその場を去った。
一方、その頃、甚平店の伊八は表で小さな物音を聞きつけ、慌てて三叩土へ降りた。
「誰かいるのかい?」
誰何しながら腰高障子をさっと開けても、表には人どころか猫の子一匹見当たらない。―誰もいねえのか。
半ばホッとして何とはなしに視線を動かしたその時、地面に放り出された小さな包みが視界に入った。
「何だ、こりゃあ」
呟き拾い上げてみると、それは竹の皮で包まれた菓子であった。そっと開いてみると、塩漬けした桜の葉にくるまれた桜色の餅が行儀良く並んでいる。それが江戸名物としても知られる随明寺の桜餅だと、伊八にはすぐに判った。

