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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第7章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の壱

三日かがりの難産の末に漸く生まれ落ちた日、安堵と嬉しさのあまり男泣きに声を上げて泣いたこと。おぼつかない手つきで初めてお彩を抱いた時、まるで少し力を込めれば壊れてしまいそうな脆さに愕いた。そして愕いたばかりでなく、たまらない愛おしさを感じ、生涯かけてこの子を何があっても守り抜くと決めたのだ。
お絹が毎夜、夜泣き蕎麦の屋台を引いて商売に出るので、物心ついてからというもの、お彩は伊八が添い寝をして寝かせてやった。自分を真の父と信じて疑いもせぬ幼子を腕に抱きながら、あどけない寝顔を眺めた日々。
成長するにつれ、美しく生い立ってゆく娘を伊八は眩しくも親として誇らしい想いで見つめていた。お絹に似てお人好しでお節介、少しも眼を離せない。十二を過ぎた頃からは、手塩にかけて育ててきた娘をどこの馬の骨とも知れぬ男にいずれは取られてしまうのだと改めて思い至り、ひどく落胆したのを憶えている。
お絹が毎夜、夜泣き蕎麦の屋台を引いて商売に出るので、物心ついてからというもの、お彩は伊八が添い寝をして寝かせてやった。自分を真の父と信じて疑いもせぬ幼子を腕に抱きながら、あどけない寝顔を眺めた日々。
成長するにつれ、美しく生い立ってゆく娘を伊八は眩しくも親として誇らしい想いで見つめていた。お絹に似てお人好しでお節介、少しも眼を離せない。十二を過ぎた頃からは、手塩にかけて育ててきた娘をどこの馬の骨とも知れぬ男にいずれは取られてしまうのだと改めて思い至り、ひどく落胆したのを憶えている。

