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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第8章 第三話 【盈月~満ちてゆく月~】 其の弐

お彩は帯に挟んでいる小さな鈴をそっと指でつまんだ。その紅い鈴は、かつて母が誰のものとも知れぬ墓に詣でた日、お彩に託したものである。お守り代わりにいつも身につけているようにと言われ、お彩はこれまでその教えを守ってきた。普段は帯飾りとして使っている。
「この鈴―」
お彩が鈴を眼の前にかざすと、伊八は頷いた。
「お前をこの世に送り出してくれたおとっつぁんの形見だ。これからも大切にしな」
お彩は紅い鈴を振った。小さな鈴はチリチリと澄んだ軽やかな音を立てる。
身重のお絹を自ら身を挺して守り、帰らぬ人となったという真の父。その父こそが彦七の言う「吉之助」であり、彦七の女房であったお縞の兄か弟であったに相違ない。
漸く散り散りになっていたものが一つにまとまったような気がする。
「この鈴―」
お彩が鈴を眼の前にかざすと、伊八は頷いた。
「お前をこの世に送り出してくれたおとっつぁんの形見だ。これからも大切にしな」
お彩は紅い鈴を振った。小さな鈴はチリチリと澄んだ軽やかな音を立てる。
身重のお絹を自ら身を挺して守り、帰らぬ人となったという真の父。その父こそが彦七の言う「吉之助」であり、彦七の女房であったお縞の兄か弟であったに相違ない。
漸く散り散りになっていたものが一つにまとまったような気がする。

