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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第9章 第四話 【ほたる草】 一

父への自分の気持ちを持て余している時、「花がすみ」の売上金を盗ったと主人の喜六郎の一人娘小巻に下手人呼ばわりされている時―、いつでもお彩の前にふっと現れ、控えめだけれど相応しい忠言を与えて去っていった。
―私は、お前さんのおっかさんを知っているよ。
陽太と名乗る男はお彩にそうも言った。母お絹と男がどうやら知り合いであったらしい―、そのことは、お彩の心を妖しくざわめかせたが、男と何度か逢う中に互いにその距離が近づいていっていることだけは判る。
それでも、陽太はお彩にとって謎に満ちた存在であることに変わりはなかった。一体どこに住み、所帯を持っているのかどうかさえ知らない。陽太という名も昔の、子どもの時分の呼び名であり、今の名前ではないようであった。見ためは穏やかな物腰の商人風であり、事実、陽太自身も自ら小さな店を一つ持っていると語った。
―私は、お前さんのおっかさんを知っているよ。
陽太と名乗る男はお彩にそうも言った。母お絹と男がどうやら知り合いであったらしい―、そのことは、お彩の心を妖しくざわめかせたが、男と何度か逢う中に互いにその距離が近づいていっていることだけは判る。
それでも、陽太はお彩にとって謎に満ちた存在であることに変わりはなかった。一体どこに住み、所帯を持っているのかどうかさえ知らない。陽太という名も昔の、子どもの時分の呼び名であり、今の名前ではないようであった。見ためは穏やかな物腰の商人風であり、事実、陽太自身も自ら小さな店を一つ持っていると語った。

