この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第9章 第四話 【ほたる草】 一

水をやったばかりの露草の緑の葉の上に小さな滴がのっている。溜め息一つで儚く消え落ちてしまうような雫が夏の陽光を宿して一瞬、眩しくきらめいた。お彩はまるで愛おしいものでも見るかのようなまなざしで、露を宿した小さな花を見つめた。
なおもしばらく可憐な蒼い花に見入っていると、店の奧から喜六郎のお彩を呼ばわる声が聞こえてきた。これからの時間帯は昼時が近くなるにつれて、お店者や職人、人足といった男たちが入れ代わり立ち替わりやってきて、かきいれ時になる。喜六郎も大分前から板場に入り、調理に使う材料の仕込みに余念がないはずだ。
お彩も「花がすみ」のたった一人の仲居として一日の中で夕飯時の次に忙しくなる時刻である。
「はあい、今行きます」と大きな声で応えた時、店の前の往来をゆっくりとこちらへ近付いてくる人影を認めた。
なおもしばらく可憐な蒼い花に見入っていると、店の奧から喜六郎のお彩を呼ばわる声が聞こえてきた。これからの時間帯は昼時が近くなるにつれて、お店者や職人、人足といった男たちが入れ代わり立ち替わりやってきて、かきいれ時になる。喜六郎も大分前から板場に入り、調理に使う材料の仕込みに余念がないはずだ。
お彩も「花がすみ」のたった一人の仲居として一日の中で夕飯時の次に忙しくなる時刻である。
「はあい、今行きます」と大きな声で応えた時、店の前の往来をゆっくりとこちらへ近付いてくる人影を認めた。

