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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第12章 第五話 【夏霧】 其の壱

だが、喜六郎はおきみとの間に子が生まれていることなぞ知らどころか、考えたこともないようだ。それだけに衝撃も大きかったのだろうが、どうやら事はこれだけではないらしい。おきみは言った。
―あの時、私がお暇を貰ったのには理由があるんです。
おきみの言葉を思い返していた時、お彩の中で閃くものがあった。お彩がこの店に勤め始めたのは十五の秋であった。その二年前に喜六郎の一人娘小巻が日本橋の仏具屋「大和屋」に嫁いでいる。嫁ぐまでは小巻が仲居の代わりに店に出ておいたのだが、急に人手を必要とした喜六郎は、一度だけ仲居を置いたことがあるそうだ。
―あの時、私がお暇を貰ったのには理由があるんです。
おきみの言葉を思い返していた時、お彩の中で閃くものがあった。お彩がこの店に勤め始めたのは十五の秋であった。その二年前に喜六郎の一人娘小巻が日本橋の仏具屋「大和屋」に嫁いでいる。嫁ぐまでは小巻が仲居の代わりに店に出ておいたのだが、急に人手を必要とした喜六郎は、一度だけ仲居を置いたことがあるそうだ。

