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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】 其の壱

が、お彩の方は、喜六郎の心遣いが今夜だけはかえって心に重かった。というのも、伊勢次への返事をしなければという気持ちが日々強くなる一方のこの頃だったからだ。しかし、考えようによっては、これは御仏が下された、またとない機会かもしれない。伊勢次にきちんとした返答をすべきときが来たのかもしれない。お彩は咄嗟に心の中で決めた。―今夜こそ、伊勢次さんにちゃんと話そう。
そんなお彩の心中を知ってか知らずか、今夜の伊勢次はどこかいつもとは違って上の空であった。
「じゃあ、伊勢さん。くれぐれも頼むぜ。間違っても送り狼にだけはならねえでくれよ」
と、最後に釘を差すことも忘れずに、喜六郎は明るい声音で若い二人を送り出した。
そんなお彩の心中を知ってか知らずか、今夜の伊勢次はどこかいつもとは違って上の空であった。
「じゃあ、伊勢さん。くれぐれも頼むぜ。間違っても送り狼にだけはならねえでくれよ」
と、最後に釘を差すことも忘れずに、喜六郎は明るい声音で若い二人を送り出した。

