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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】 其の壱

「花がすみ」を出たお彩と伊勢次は黙り込んだまま、ゆっくりと歩いた。店の前は、昼間でさえ殆ど人通りのない静かな道である。ましてや、このような夜更けとあれば、猫の子一匹通らぬ有り様であったが、今宵は桜花の時分とあって、随明寺の夜桜見物を決め込んだ連中が声高に話しながら通り過ぎてゆく姿が再々見かけられた。
今もお彩と伊勢次の後ろから歩いてきた若い男女が足早に追い越していった。年の頃もまさに自分たちと似たような仲睦まじい恋人たちの姿に、二人の間に何とはなしに気まずさが落ちた。少し先をゆく男女の中(うち)、女の方が男にいっそう身を擦り寄せた。男が少し身を屈め、女は背伸びするような格好で男の耳許に口を寄せ何事か囁く。何を言ったのか、女の言葉に男が声を上げて笑った。
その二人の仕草は、いかにも相惚れの仲を思わせ、つに先刻までの二人の密事を嫌が上にも匂わせた。
今もお彩と伊勢次の後ろから歩いてきた若い男女が足早に追い越していった。年の頃もまさに自分たちと似たような仲睦まじい恋人たちの姿に、二人の間に何とはなしに気まずさが落ちた。少し先をゆく男女の中(うち)、女の方が男にいっそう身を擦り寄せた。男が少し身を屈め、女は背伸びするような格好で男の耳許に口を寄せ何事か囁く。何を言ったのか、女の言葉に男が声を上げて笑った。
その二人の仕草は、いかにも相惚れの仲を思わせ、つに先刻までの二人の密事を嫌が上にも匂わせた。

