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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】 其の壱

伊勢次の言う「あいつら」というのは先刻の二人連れを指すのだと判る。だが、お彩はあの恋人たちのことを話題にするのは避けたかった。あの二人のことを話せば、どうしてもあの恋人たちの到底他人ではないと思わせる親密さを思い出してしまうからだ。
お彩は伊勢次の言葉には相槌を打とうとはせず、つとめて何げない様子で言った。
「それにしても、旦那さんがあんな風流なことを言いなさるとは思いませんでした」
唐突に言われ、伊勢次は人懐っこそうな細い眼を見開いた。お彩が何故、自分の話に乗ってこない―というよりは、端から無視しようとするのか解せないといった風に見えた。 だが、その反応に、お彩は頓着しなかった。
「だって、夜桜を女のひとの艶っぽさにたとえるなんて、なかなか粋だと思いませんか」
これは、思いかけぬ話題だったようで、伊勢次は気が抜けたように、「ああ」とも「おお」とも取れぬ生返事であった。
お彩は伊勢次の言葉には相槌を打とうとはせず、つとめて何げない様子で言った。
「それにしても、旦那さんがあんな風流なことを言いなさるとは思いませんでした」
唐突に言われ、伊勢次は人懐っこそうな細い眼を見開いた。お彩が何故、自分の話に乗ってこない―というよりは、端から無視しようとするのか解せないといった風に見えた。 だが、その反応に、お彩は頓着しなかった。
「だって、夜桜を女のひとの艶っぽさにたとえるなんて、なかなか粋だと思いませんか」
これは、思いかけぬ話題だったようで、伊勢次は気が抜けたように、「ああ」とも「おお」とも取れぬ生返事であった。

