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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】 其の壱

お彩が伊勢次に言った言葉は満更、その場しのぎだけではない。普段の喜六郎はいかつい将棋の駒のような顔にギョロリとした眼とお世辞にも良い男とはいえない。おまけに気の利いた台詞一つ口にできない。それが、いきなり夜桜には男を狂わせる女の色香に通ずるものがある―だなぞと言い出して、お彩は瞠目した。
確かに、ぬばたまの闇にほの白く浮かび上がる満開の桜には狂気を秘めた美しさがある。それは喜六郎の言うように、男の心を惑わせる艶麗な女の妖しさを彷彿とさせる。だが、まさかあの喜六郎からそんな台詞が出るとは想像もできなかったお彩である。
伊勢次からは何の反応もなく、お彩は仕方なく続けた。
「あの台詞はなかなか言い得て妙な気がしたんですけど、伊勢次さんは」
―どう思ったんですか?
そう訊こうとして、お彩は次の言葉を呑み込んだ。
確かに、ぬばたまの闇にほの白く浮かび上がる満開の桜には狂気を秘めた美しさがある。それは喜六郎の言うように、男の心を惑わせる艶麗な女の妖しさを彷彿とさせる。だが、まさかあの喜六郎からそんな台詞が出るとは想像もできなかったお彩である。
伊勢次からは何の反応もなく、お彩は仕方なく続けた。
「あの台詞はなかなか言い得て妙な気がしたんですけど、伊勢次さんは」
―どう思ったんですか?
そう訊こうとして、お彩は次の言葉を呑み込んだ。

