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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第14章 第六話 【春の雨】 其の壱

伊勢次は、まるでお彩の話を聞いてはいないようだった。お彩は妙に思った。
今夜の伊勢次は、どう考えても、いつもと違う。案の定、それからお彩が何を話してみても、ろくな返事は返ってこず、心ここにあらずといった体であった。そういえば、「花がすみ」にいたときも始終、黙り込んでいた。普段なら賑やかな伊勢次にしては珍しいことだと思っていたのだが。
「それで、八百屋のおたみさんがね」
お彩が他愛もない近所の女房の話をしていた時、伊勢次が突如として話を遮った。
「お彩ちゃん、こんなことを言っちゃあ悪いが、俺たちの話、さっきから全然かみ合っていねえぜ」
「―」
お彩は黙り込んだ。その可憐な顔に浮かんでいた微笑が見る間に消えてゆく。
伊勢次は、そんなお彩をじっと見つめた。
そのまなざしには、いつになく思いつめたような光があった。
今夜の伊勢次は、どう考えても、いつもと違う。案の定、それからお彩が何を話してみても、ろくな返事は返ってこず、心ここにあらずといった体であった。そういえば、「花がすみ」にいたときも始終、黙り込んでいた。普段なら賑やかな伊勢次にしては珍しいことだと思っていたのだが。
「それで、八百屋のおたみさんがね」
お彩が他愛もない近所の女房の話をしていた時、伊勢次が突如として話を遮った。
「お彩ちゃん、こんなことを言っちゃあ悪いが、俺たちの話、さっきから全然かみ合っていねえぜ」
「―」
お彩は黙り込んだ。その可憐な顔に浮かんでいた微笑が見る間に消えてゆく。
伊勢次は、そんなお彩をじっと見つめた。
そのまなざしには、いつになく思いつめたような光があった。

