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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】 其の弐

これより少し時間は前に遡ることになる。
その頃、伊勢次は「花がすみ」の暖簾をくぐっていた。二日前、「花がすみ」からの帰り道、お彩を長屋まで送っていった夜の出来事が伊勢次は気になってならなかったからだ。
あの夜、伊勢次はお彩から所帯を持たないかという問いの最終的な返事を得た。それは、伊勢次が思っていたように、否というものだった。お彩にも告げたように、断られたことで腹を立てたりしているわけでもない。確かに一年という日々は返事を待つ者にとっては短くはない。それは本音だ。
だが、お彩はその間、伊勢次に気を持たせるようなふるまいは一度としてしなかった。いっそのこと、少しでも期待を持たせるようなところがあれば、伊勢次はたとえ一瞬でも幸運な勘違いをすることもできただろうし、結局は断ってきたお彩を責めることも恨むこともできた。
その頃、伊勢次は「花がすみ」の暖簾をくぐっていた。二日前、「花がすみ」からの帰り道、お彩を長屋まで送っていった夜の出来事が伊勢次は気になってならなかったからだ。
あの夜、伊勢次はお彩から所帯を持たないかという問いの最終的な返事を得た。それは、伊勢次が思っていたように、否というものだった。お彩にも告げたように、断られたことで腹を立てたりしているわけでもない。確かに一年という日々は返事を待つ者にとっては短くはない。それは本音だ。
だが、お彩はその間、伊勢次に気を持たせるようなふるまいは一度としてしなかった。いっそのこと、少しでも期待を持たせるようなところがあれば、伊勢次はたとえ一瞬でも幸運な勘違いをすることもできただろうし、結局は断ってきたお彩を責めることも恨むこともできた。

