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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】 其の弐

多分、その間にもお彩の気持ちを知る機会は幾らでもあったはずだ。伊勢次の方から応えを求めれば、お彩は、はっきりと断ってきただろう。それが判っていながら、伊勢次がお彩に返事を迫らなかったのは、伊勢次がお彩の返事を聞きたくなかったからだ。お彩が伊勢次を失うのを怖れたのと同様、伊勢次もまたお彩を失うのを怖れたのだ。たとえ男女の色恋ではなかったとしても、二人が互いに必要としていることは紛れもない事実であった。
皮肉なことに、二人が「必要」としているその意味は、それぞれ全く異なるものではあったけれど。
だから、お彩に求婚を拒絶されたことそのものは、伊勢次は毛頭腹立ちはなかった。もちろん落胆はしたが、お彩ほどの器量よしで気立ての良い娘を端から自分のような男が望む方が分不相応というものだと思えば、悔しいが諦めはつく。
皮肉なことに、二人が「必要」としているその意味は、それぞれ全く異なるものではあったけれど。
だから、お彩に求婚を拒絶されたことそのものは、伊勢次は毛頭腹立ちはなかった。もちろん落胆はしたが、お彩ほどの器量よしで気立ての良い娘を端から自分のような男が望む方が分不相応というものだと思えば、悔しいが諦めはつく。

