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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第15章 第六話 【春の雨】 其の弐

しかし、伊勢次には、わだかまりがあった。それは、お彩が自分を拒んだ原因―いや、自分だけではなく、その他のお彩に相応しいであろうと思われるすべての男を拒絶する因となっている存在のことだ。あの男について、伊勢次は何も知らない。いかにも大店の主人ふうの物腰と威厳、存在感―、そして月のように美しい、江戸の町でも滅多とお目にかかれないどの美男であった。
だが、伊勢次はそんな外見には惑わされない。あの男には何かしら危険なものを感じる。男の周囲にまとわりついている悲運の翳、あのまなざしの暗さ。まるで大きな鎌を持った死に神が黄泉の国から現世に出で現れたかのような禍々しさだ。そして、始末に負えないことに、その死に神は天上の神やありがたい仏もかくやと思わせるほどに美しいのだ。
だが、伊勢次はそんな外見には惑わされない。あの男には何かしら危険なものを感じる。男の周囲にまとわりついている悲運の翳、あのまなざしの暗さ。まるで大きな鎌を持った死に神が黄泉の国から現世に出で現れたかのような禍々しさだ。そして、始末に負えないことに、その死に神は天上の神やありがたい仏もかくやと思わせるほどに美しいのだ。

