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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―

男が「花がすみ」に顔を見せるようになったのは、お彩が勤め始めてまもない頃のことだ。一年前、初めて男が「花がすみ」を訪れて以来、男は何度かやって来た。たいがいは思い出したように突然顔を覗かせる。いつも店の奧まった片隅の席に陣取り、一人で手酌酒を呑む。呑む量もさして多いわけではなく、飯を食べるでもなく、つまみの品を二つ、三つつまむ程度のものだ。
お彩は、いつしか男の訪れを待ち侘びるようになっていた。といっても、別段親しく言葉を交わすわけでもない。ただ喜六郎の作ったつまみや温めた酒を運ぶ役目を果たすだけだ。男は半刻(はんとき)ほどそうやって黙々と酒を呑んだ後、ひっそりと帰ってゆく。
今夜、男は久しぶりにやって来た。前に顔を見せたのはまだ残暑の残る季節だったから、今回は随分とご無沙汰だった。いつもなら長くても一カ月ほどしか間が空かなかったのに。あまりに来ないので、お彩は男がもう「花がすみ」には来ないのではないかとひそかに心配していたほどだった。
お彩は、いつしか男の訪れを待ち侘びるようになっていた。といっても、別段親しく言葉を交わすわけでもない。ただ喜六郎の作ったつまみや温めた酒を運ぶ役目を果たすだけだ。男は半刻(はんとき)ほどそうやって黙々と酒を呑んだ後、ひっそりと帰ってゆく。
今夜、男は久しぶりにやって来た。前に顔を見せたのはまだ残暑の残る季節だったから、今回は随分とご無沙汰だった。いつもなら長くても一カ月ほどしか間が空かなかったのに。あまりに来ないので、お彩は男がもう「花がすみ」には来ないのではないかとひそかに心配していたほどだった。

