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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第1章 第一話―其の壱―

今年の夏は随分な猛暑だったが、九月の終わりになっても、暑さは去らず江戸は連日の残暑が続いた。その暑い夏が漸く過ぎ去り、秋らしい気候になったかと思っている中(うち)に日は流れるように過ぎ、いつしか暦は霜月に入っていた。男がふらりと訪れるのは夜と相場が決まっていた。今夜、入ってきた客の顔を何げなく見た時、お彩は息が止まるかとさえ思った。
今夜、男は濃紺の着物に身を包んでいた。まるで江戸の町をすっぽり包み込む夜の闇を身に纏ったような男の姿に、お彩の胸は轟いた。注文を取りにいくときも、お彩は自分の胸の鼓動が相手に勘づかれはすまいかと気が気ではなかった。
男はいつものように半刻ほど手酌で酒を呑んだ後、静かに帰ってゆく。男が帰った後、更に数人の客を送り出し、その日は店の暖簾を仕舞った。表の「花がすみ」と描かれた掛け行灯の灯りを落とし、暖簾を仕舞うと、一日が漸く終わる。お彩は主人の喜六郎に挨拶して、住まいの長屋に戻るのだ。
今夜、男は濃紺の着物に身を包んでいた。まるで江戸の町をすっぽり包み込む夜の闇を身に纏ったような男の姿に、お彩の胸は轟いた。注文を取りにいくときも、お彩は自分の胸の鼓動が相手に勘づかれはすまいかと気が気ではなかった。
男はいつものように半刻ほど手酌で酒を呑んだ後、静かに帰ってゆく。男が帰った後、更に数人の客を送り出し、その日は店の暖簾を仕舞った。表の「花がすみ」と描かれた掛け行灯の灯りを落とし、暖簾を仕舞うと、一日が漸く終わる。お彩は主人の喜六郎に挨拶して、住まいの長屋に戻るのだ。

