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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第17章 第七話 【雪花】 其の弐

【其の弐】
お彩はもうかれこれ四半刻近くの間、川原に佇んでいた。江戸の町も外れのこの和泉橋の下を流れる小さな川には名前がない。いや、恐らくは名はあるのだろうが、誰も知る者がいないだけでのことなのかもしれない。
お彩の母お絹がしばしば夜泣き蕎麦屋の店を出していたという場所でもある。小さな橋を渡りきった先には老中松平越中守さまのお屋敷が見え、そこから一帯は「和泉橋町」と呼ばれる、閑静な武家屋敷町であった。一方、橋を渡りきったその反対側は商家がひしめく町人町であり、お彩の惚れた男京屋市兵衛の営む呉服問屋もその中にある。
その男をお彩はつい最近まで陽太と呼んでいた。冷たい冬の風が容赦なしに吹きつけてくる川辺に佇み、お彩は暗い水面を見つめていた。
お彩はもうかれこれ四半刻近くの間、川原に佇んでいた。江戸の町も外れのこの和泉橋の下を流れる小さな川には名前がない。いや、恐らくは名はあるのだろうが、誰も知る者がいないだけでのことなのかもしれない。
お彩の母お絹がしばしば夜泣き蕎麦屋の店を出していたという場所でもある。小さな橋を渡りきった先には老中松平越中守さまのお屋敷が見え、そこから一帯は「和泉橋町」と呼ばれる、閑静な武家屋敷町であった。一方、橋を渡りきったその反対側は商家がひしめく町人町であり、お彩の惚れた男京屋市兵衛の営む呉服問屋もその中にある。
その男をお彩はつい最近まで陽太と呼んでいた。冷たい冬の風が容赦なしに吹きつけてくる川辺に佇み、お彩は暗い水面を見つめていた。

