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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第18章 第七話 【雪花】 其の参

その頃、お彩は随明寺の石段を降りていた。あまりにも急な勾配で長いことから、「息継坂」とも呼ばれている。年寄りや女、子どもは到底ひと息には上れず、お彩もいつも途中で何度か休まなければならない。しかし、下りは当然ながら、それほどの苦もなく降りることができた。
お彩は先刻、お絹の墓参を済ませてきたばかりだった。「花がすみ」の主喜六郎が急に暇をくれたので、思い立って母の墓詣でに来たのである。甚平店に行くこと考えたが、今は一人になりたかった。
お彩の母お絹は四年前に三十一で急逝した。かよわい女の身でありながら、楽々と重い屋台を引いていたという母の口癖はいつも
―心に花を咲かせるんだよ。
だった。一生に一度で良いから、自分だけのたった一つの花を力の限り咲かせるのだと、幼いお彩にも言い聞かせていた。
お彩は先刻、お絹の墓参を済ませてきたばかりだった。「花がすみ」の主喜六郎が急に暇をくれたので、思い立って母の墓詣でに来たのである。甚平店に行くこと考えたが、今は一人になりたかった。
お彩の母お絹は四年前に三十一で急逝した。かよわい女の身でありながら、楽々と重い屋台を引いていたという母の口癖はいつも
―心に花を咲かせるんだよ。
だった。一生に一度で良いから、自分だけのたった一つの花を力の限り咲かせるのだと、幼いお彩にも言い聞かせていた。

