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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第3章 第一話-其の参-

境内の紅葉はつい数日前までは鮮やかな紅に染め上がっていたのだが、今はもうその半分以上が葉を落としている。桜の時季と違い、紅葉の頃はさほど人の姿も見られず、広い境内は森閑としていた。中でも最奥のこの界隈は水を打ったかのように静まり返っている。
既にその前には一輪の白菊が手向けられていた。たった今活けたばかりのように瑞々しい花を見つめながら、お絹は微笑した。
―敵わないわねえ。おっかさん。
恐らくは父伊八もまた今日この日、亡妻の墓参りに来たのだ。伊八は恋女房の月命日に墓参を欠かしたことはない。お彩が甚平店を出てゆくまでは、いつも父娘二人で墓参りに訪れていたものだった。
父は今でも母を忘れてはいない。多分、何者もあの夫婦の間に割り込むことはできないのだ。それほどお彩の両親は強い絆で結ばれている。たとえ死ですら二人を完全に分かつことはできない。
既にその前には一輪の白菊が手向けられていた。たった今活けたばかりのように瑞々しい花を見つめながら、お絹は微笑した。
―敵わないわねえ。おっかさん。
恐らくは父伊八もまた今日この日、亡妻の墓参りに来たのだ。伊八は恋女房の月命日に墓参を欠かしたことはない。お彩が甚平店を出てゆくまでは、いつも父娘二人で墓参りに訪れていたものだった。
父は今でも母を忘れてはいない。多分、何者もあの夫婦の間に割り込むことはできないのだ。それほどお彩の両親は強い絆で結ばれている。たとえ死ですら二人を完全に分かつことはできない。

