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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第19章 第八話 【椿の宿】

【其の壱】
低く垂れ込めた空からは今にも白い花びらが舞い降りてきそうだ。如月の寒さは身の芯までも凍らせるようで、お彩は思わずか細い身体を震わせた。が、外の寒さ、大気の冷たさにも拘わらず、身体の奥底には、まだ先刻までの嵐の余韻が残っていて、それが身体全体をほのかな熱で包み込んでいるようだった。
そう、つい今し方まで、お彩は随明寺からほど近い出合茶屋に男と二人でいた。男の名は京屋市兵衛、江戸でも名の通った大店の主人であり、市兵衛は数えて六代目だ。この男をお彩は普段は〝陽太〟と呼んでいる。陽太というのは市兵衛がまだ京屋の丁稚に入ったばかりの頃、名乗っていた幼名である。
低く垂れ込めた空からは今にも白い花びらが舞い降りてきそうだ。如月の寒さは身の芯までも凍らせるようで、お彩は思わずか細い身体を震わせた。が、外の寒さ、大気の冷たさにも拘わらず、身体の奥底には、まだ先刻までの嵐の余韻が残っていて、それが身体全体をほのかな熱で包み込んでいるようだった。
そう、つい今し方まで、お彩は随明寺からほど近い出合茶屋に男と二人でいた。男の名は京屋市兵衛、江戸でも名の通った大店の主人であり、市兵衛は数えて六代目だ。この男をお彩は普段は〝陽太〟と呼んでいる。陽太というのは市兵衛がまだ京屋の丁稚に入ったばかりの頃、名乗っていた幼名である。

