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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第19章 第八話 【椿の宿】

この男とお彩の間には不思議な縁(えにし)があった。かつて市兵衛は江戸の外れにある甚平店と呼ばれる粗末な裏店で暮らしていた。父親は鋳掛け屋を営む太吉、母親はおみのという気の好い女だった。
陽太は父親のようにその日暮らしの職人で終わるのがいやで、自ら望んで老舗の呉服太物問屋に奉公に出たのである。当時、お彩の母お絹もまた同じ長屋に住んでおり、少年だった陽太はお絹にひそかに恋慕の想いを抱いていた。
陽太は十歳を過ぎて京屋に小僧として入り、お絹への初恋はそのままになった。そして、お絹は飾り職人の伊八と所帯を持ち、やがて、お彩が生まれた。とはいえ、お彩は伊八の実子ではない。夜泣き蕎麦屋をしていたお絹が吉之助(よしのすけ)という男に犯されて身ごもった子である。
陽太は父親のようにその日暮らしの職人で終わるのがいやで、自ら望んで老舗の呉服太物問屋に奉公に出たのである。当時、お彩の母お絹もまた同じ長屋に住んでおり、少年だった陽太はお絹にひそかに恋慕の想いを抱いていた。
陽太は十歳を過ぎて京屋に小僧として入り、お絹への初恋はそのままになった。そして、お絹は飾り職人の伊八と所帯を持ち、やがて、お彩が生まれた。とはいえ、お彩は伊八の実子ではない。夜泣き蕎麦屋をしていたお絹が吉之助(よしのすけ)という男に犯されて身ごもった子である。

