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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第19章 第八話 【椿の宿】

まだしも膚を合わせる前の方が市兵衛は、素の自分をお彩に見せていたのではないか。以前の市兵衛は、謎めいた翳りはあったが、笑いもすれば怒りも爆発させる、ごく生身の男であった。
それが、かえって深間になって頻繁に逢うようになってからの方がお彩にとっては遠い存在になったように思える。
初めて逢った瞬間から、市兵衛に惹かれていた。市兵衛の眼を見上げ、その虜になった。あの眼に、あの暗い瞳にひそんだ傷つきやすさに気づくと、手を伸ばして彼に触れたくなった。
市兵衛には愛情が必要だ。あの男もきっと孤独なのだ―、母が血縁上の父に手込めにされて身ごもった娘である、そんな救いがたい出生の秘密を持つお彩もまた、孤独であった。愛情深い育ての父と母に育てられ、十七になるまでその呪われた出生の事実を知らなかった。
それが、かえって深間になって頻繁に逢うようになってからの方がお彩にとっては遠い存在になったように思える。
初めて逢った瞬間から、市兵衛に惹かれていた。市兵衛の眼を見上げ、その虜になった。あの眼に、あの暗い瞳にひそんだ傷つきやすさに気づくと、手を伸ばして彼に触れたくなった。
市兵衛には愛情が必要だ。あの男もきっと孤独なのだ―、母が血縁上の父に手込めにされて身ごもった娘である、そんな救いがたい出生の秘密を持つお彩もまた、孤独であった。愛情深い育ての父と母に育てられ、十七になるまでその呪われた出生の事実を知らなかった。

