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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第19章 第八話 【椿の宿】

しかし、お彩は伊勢次の求婚を断り、伊勢次は、お彩どころか「花がすみ」にも寄りつこうとしなくなった。
かつて、伊勢次はお彩に言った。
―あの男は得体が知れねえ危うさがある。けして近づいちゃならねえ。
あの男というのは京屋市兵衛であり、伊勢次に言わせれば、市兵衛はいつかお彩を必ず不幸のどん底へ突き落とすというのだった。それでもなお、お彩は伊勢次の言葉に耳を貸そうとしなかった。
以来、伊勢次はお彩に近づくことを避けているようであった。お彩は喜六郎の窺うような視線に、わざと明るい笑顔で応えた。
「もちろんですよ。いやだわ、旦那さんったら。その友達ってのは、甚平店にいた時分の幼なじみで、おともちゃんっていうんです。今はよそにお嫁にいってるんですけど、今日は、おともちゃんも偶然おとっつぁんの墓参りにきたみたいで」
かつて、伊勢次はお彩に言った。
―あの男は得体が知れねえ危うさがある。けして近づいちゃならねえ。
あの男というのは京屋市兵衛であり、伊勢次に言わせれば、市兵衛はいつかお彩を必ず不幸のどん底へ突き落とすというのだった。それでもなお、お彩は伊勢次の言葉に耳を貸そうとしなかった。
以来、伊勢次はお彩に近づくことを避けているようであった。お彩は喜六郎の窺うような視線に、わざと明るい笑顔で応えた。
「もちろんですよ。いやだわ、旦那さんったら。その友達ってのは、甚平店にいた時分の幼なじみで、おともちゃんっていうんです。今はよそにお嫁にいってるんですけど、今日は、おともちゃんも偶然おとっつぁんの墓参りにきたみたいで」

