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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話 【椿の宿】 其の弐

しかし、顔立ちとかではなく、もっと奥深い部分で、実は父と伊勢次とはよく似通っているのだ。誠実で裏表がなくて、無類のお人好し。多分、そんなよく似た魂を持つ二人だから、自ずと雰囲気が似たものになってくるのだろう。
去年の春、桜花の咲き誇る頃に、随明寺の絵馬堂前で伊勢次と市兵衛が取っ組み合いの派手な喧嘩をしたことがある。あの時、お彩は、伊勢次ではなく市兵衛を選ぶと言い切った。あのときの伊勢次の哀しげな眼をお彩はいまだに忘れられない。
あの日を境に、伊勢次はお彩を避けるようになり、「花がすみ」にも来なくなった。あれから一年近い日々が過ぎ去っている。友達とも兄とも思っていただけに、伊勢次を失った衝撃は、お彩にとっては少なからぬものがあった。
去年の春、桜花の咲き誇る頃に、随明寺の絵馬堂前で伊勢次と市兵衛が取っ組み合いの派手な喧嘩をしたことがある。あの時、お彩は、伊勢次ではなく市兵衛を選ぶと言い切った。あのときの伊勢次の哀しげな眼をお彩はいまだに忘れられない。
あの日を境に、伊勢次はお彩を避けるようになり、「花がすみ」にも来なくなった。あれから一年近い日々が過ぎ去っている。友達とも兄とも思っていただけに、伊勢次を失った衝撃は、お彩にとっては少なからぬものがあった。

