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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話 【椿の宿】 其の弐

今頃、市兵衛は随明寺門前の「むらさき亭」の長暖簾をくぐっている頃だろうか。いや、時間には律儀な男のことだから、今時分は二階の廊下を行き当たった小座敷に上がっているだろう。
いずれにしても、お彩を待っていることには相違ない。だが、お彩は、もう二度とあそこへ脚を踏み入れるつもりはない。けして来るはずのない女を待つ市兵衛の姿がまるで見ているように脳裡に浮かぶ。その刹那、きりきりと心を締め上げられるような苦しさを憶えた。
随明寺からこの「花がすみ」は、ほんの眼と鼻の先だ。今から急げば、十分間に合うはずだ。
いずれにしても、お彩を待っていることには相違ない。だが、お彩は、もう二度とあそこへ脚を踏み入れるつもりはない。けして来るはずのない女を待つ市兵衛の姿がまるで見ているように脳裡に浮かぶ。その刹那、きりきりと心を締め上げられるような苦しさを憶えた。
随明寺からこの「花がすみ」は、ほんの眼と鼻の先だ。今から急げば、十分間に合うはずだ。

