この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第20章 第八話 【椿の宿】 其の弐

その数日後のことである。暦は既に弥生を告げていた。
その日の朝、お彩は滅多にないことに、寝過ごしてしまった。実は前夜、甚平店に住む父伊八の住まいを訪ねていた。要するに、生まれ育った家に帰っていたのだ。
そこで伊八の晩酌に付き合ったところ、家に帰ったのは良いが、毎朝起きる時間になっても眼覚めず、そのまま眠っていたらしい。もう夜も遅いから止まっていけとしきりに勧める父に、お彩は笑って首を振った。
「花がすみ」に毎朝、顔を出すのは店を開ける一刻余り前と相場が決まっている。甚平店から「花がすみ」はたいした距離はないゆえ、そのまま泊まっても良かったのだが、万が一遅刻してはならないと考え、自分の長屋に戻ったのである。
その日の朝、お彩は滅多にないことに、寝過ごしてしまった。実は前夜、甚平店に住む父伊八の住まいを訪ねていた。要するに、生まれ育った家に帰っていたのだ。
そこで伊八の晩酌に付き合ったところ、家に帰ったのは良いが、毎朝起きる時間になっても眼覚めず、そのまま眠っていたらしい。もう夜も遅いから止まっていけとしきりに勧める父に、お彩は笑って首を振った。
「花がすみ」に毎朝、顔を出すのは店を開ける一刻余り前と相場が決まっている。甚平店から「花がすみ」はたいした距離はないゆえ、そのまま泊まっても良かったのだが、万が一遅刻してはならないと考え、自分の長屋に戻ったのである。

