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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第4章 第二話【花影】-其の壱-

お彩は母お絹が亡くなった一年後、長年住み慣れた甚平店を出た。あまりに突然の出来事だったので、父伊八も止める暇さえないほどであった。だが、傍目には唐突にも見える家出もお彩にとっては、それほど衝動的なものではなかったのである。お彩が身の回りの物をほんの少しだけ風呂敷に包んで甚平店を出たのには深い経緯(いきさつ)があり、お彩自身、よくよく思案の上でのことだった。
その理由というのは―、けして他人(ひと)には語れぬものであり、あろうことか、お彩は実の父親である伊八に惚れてしまったのだ。もちろん、お彩だとて初めはその想いがまさか恋情であるとは考えもしなかった―、否、正直には気付いてはいたけれど、敢えて真実から眼を背けていたのだ。
その理由というのは―、けして他人(ひと)には語れぬものであり、あろうことか、お彩は実の父親である伊八に惚れてしまったのだ。もちろん、お彩だとて初めはその想いがまさか恋情であるとは考えもしなかった―、否、正直には気付いてはいたけれど、敢えて真実から眼を背けていたのだ。

