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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第4章 第二話【花影】-其の壱-

それが何ゆえ、母が女には少々苛酷ともいえる重い屋台を引いていたのかといえば、夜泣き蕎麦屋の仕事は母お絹がその父、つまり、お彩には祖父になる参次から引き継いだからであった。父は母に心底惚れていたから、母と所帯を持った当初から暮らしていたこの長屋を離れられないのだ。
「また、根詰めて仕事ばかりしてるんじゃないの? おとっつぁんももう歳なんだから、あんまり無理しないでよ」
お彩は、わざと無愛想に言う。父の顔をひとめ見ただけで胸が一杯になってしまって、泣きそうになったのを父に知られたくなかった。伊八は今年四十になる。当時としては若いとは言えないが、まだ年寄り扱いされる歳でもなかった。だが、伊八は娘に小言を言われて、嬉しげに顔をくしゃっと歪めた。
「おい、お前、何だか歳を取るにつれて、おっかさんに似てきやしねえか? 今のお前の口ぶりは、お絹そのまんまだぜ」
「また、根詰めて仕事ばかりしてるんじゃないの? おとっつぁんももう歳なんだから、あんまり無理しないでよ」
お彩は、わざと無愛想に言う。父の顔をひとめ見ただけで胸が一杯になってしまって、泣きそうになったのを父に知られたくなかった。伊八は今年四十になる。当時としては若いとは言えないが、まだ年寄り扱いされる歳でもなかった。だが、伊八は娘に小言を言われて、嬉しげに顔をくしゃっと歪めた。
「おい、お前、何だか歳を取るにつれて、おっかさんに似てきやしねえか? 今のお前の口ぶりは、お絹そのまんまだぜ」

