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ただ、あなたに逢いたくて~心花【こころばな】~
第30章 第十二話 【花見月の別れ】 其の壱

もっとも、お彩は実際には、そんなことはするはずもなく、知り合いでもない女にじろじろと見つめられた男は不審げな視線をよこし、お彩の傍を通り過ぎていった。
江戸で生まれ育ちながら、こんなことを言うのも今更なようではあるけれど、お彩はいかにも都会らしい江戸の喧騒―賑わいがあまり得意ではなかった。それなのに、今、実に久しぶりに帰ってきた江戸の土地の何もかもがお彩には泣きたいほど懐かしく慕わしく感じられた。
お彩は背中の赤子をそっと揺すり上げ、声をかけた。
「ここがおっかさんの生まれたところだよ」
寝んねこ袢纏にくるまれた赤子はぐっすりと寝入っていて、お彩の言葉を聞いているとは思えなかったけれど、お彩は我が子にそう語りかけずにはおられなかった。
江戸で生まれ育ちながら、こんなことを言うのも今更なようではあるけれど、お彩はいかにも都会らしい江戸の喧騒―賑わいがあまり得意ではなかった。それなのに、今、実に久しぶりに帰ってきた江戸の土地の何もかもがお彩には泣きたいほど懐かしく慕わしく感じられた。
お彩は背中の赤子をそっと揺すり上げ、声をかけた。
「ここがおっかさんの生まれたところだよ」
寝んねこ袢纏にくるまれた赤子はぐっすりと寝入っていて、お彩の言葉を聞いているとは思えなかったけれど、お彩は我が子にそう語りかけずにはおられなかった。

